胚移植

胚移植とは

胚移植（はい いしょく）とは、「体外受精（IVF）によって体外で受精・培養された胚（受精卵）を子宮内に戻す治療」のことです。
体外受精の成功を大きく左右する重要なプロセスであり、移植する胚の状態、子宮内膜の厚さや質、移植のタイミングなど多くの要素が妊娠率を決めるため、専門的で緻密な管理が必要となります。

近年は、培養技術や凍結技術が大きく進歩し、より発育能力の高い胚を選択できるようになったことで、妊娠率は着実に向上しています。
また、患者様の身体的負担を軽減しながら治療できるよう、移植のタイミングを柔軟に調整できる“凍結胚移植”が広く普及しています。

 

 胚移植の種類（新鮮胚移植・凍結胚移植）

胚移植には「新鮮胚移植」と「凍結胚移植」の2つがあり、体調・ホルモン値・治療方針によって、医師が最適な方法を提案します。

新鮮胚移植（Fresh ET）

採卵した同じ周期の中で受精・分割した胚をそのまま移植する方法です。

【メリット】

•  採卵から移植までが同一周期で進むため治療期間が比較的短い
•  凍結・融解を行わないため胚への負担が少ない

【デメリット】

•  排卵誘発によるホルモン変化で子宮内膜が十分な状態にならないことがある
•  OHSS（卵巣過剰刺激症候群）の可能性がある場合は実施できないことがある

凍結胚移植（Frozen ET）（融解胚移植）

胚を凍結し、別の周期で子宮環境が整ったタイミングで移植する方法です。
成功率も高く、現在は最も一般的です。

【メリット】

• 子宮内膜を最も良い状態に整えて移植できる
•  身体的負担が軽い
•  OHSS（卵巣過剰刺激症候群）を避けられる
•  複数胚がある場合は移植回数を計画的に調整できる

【デメリット】

•  融解後に一部の胚がダメージを受ける可能性がある
•  採卵周期とは別の周期で移植するため期間が延びる場合がある

 

※OHSS（卵巣過剰刺激症候群）とは

排卵誘発剤の使用により卵巣が過剰に反応し、腹部膨満感や腹痛、吐き気、体重増加などの症状を引き起こす状態です。
軽度の場合は経過観察で済むことが多いですが、重度の場合は入院や治療が必要です。
特に多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）の患者にリスクが高いです

 

胚移植のタイミングについて

融解胚移植（凍結胚移植）を行う際、胚が子宮内膜に適切に着床できるようにするために、移植のタイミングを調整する方法がいくつかあります。
融解胚移植を行う際の代表的な３つの方法について説明します。

 

自然排卵周期（Natural Cycle）

特徴

自然な排卵周期に合わせて、移植する方法です。患者さんの体が自然に排卵するタイミングに合わせて移植を行います。
排卵が確認された後、凍結胚を解凍して移植します。

メリット

最小限の薬使用：ホルモン治療がほとんど不要で、体に負担が少ない。
自然なホルモン変動を活かして移植を行うため、身体の負担を最小限に抑えられる。

デメリット

排卵タイミングが予測できるものの、周期が不安定な場合や予測が難しい場合には不向き。
排卵が遅れる、または早まることがあるため、移植日が調整しにくい。
妊娠率がホルモン補充を行った場合より低い場合があることがある。

向いている人

生理周期が規則的で安定している方。
薬物に対して敏感で、副作用を避けたい方。

 

2. 低刺激周期（Lowstimulation Cycle）

特徴

排卵誘発剤（クロミフェンやhMG、rFSHなど）を少量使用して、軽く卵胞の発育を促す方法です。
自然周期に比べて少し薬を使用し、排卵を調整することで移植のタイミングを整えやすくします。

メリット

薬の使用が少ないため、完全な刺激周期よりも身体への負担が少ない。
自然排卵周期よりも移植のタイミングを調整しやすい。
妊娠率が自然周期よりも高くなることが多い。

デメリット

クロミフェン（飲み薬）やFSH（注射）を使うため、薬による副作用が出ることがある。
（例えば、卵巣過剰刺激症候群［OHSS］のリスクが若干あるなど）
卵巣への負担が完全な自然周期よりはやや高い。

向いている人

周期が不規則な方や、移植タイミングを少し調整したい方。
軽い刺激で卵巣の反応を見ながら治療したい方。

 

3. ホルモン補充周期（Hormone Replacement Therapy: HRT）

特徴

ホルモン治療で子宮内膜を人工的に準備する方法です。
エストロゲンを使って子宮内膜を厚くし、最適な着床環境を整えた後、プロゲステロンを補充して胚移植を行います。

メリット

移植日の調整が非常に柔軟で、患者さんのライフスタイルに合わせて移植タイミングを選びやすい。
生理周期が不規則な方や、ホルモン環境を整え直したい方に最適。
OHSS（卵巣過剰刺激症候群）のリスクがなく、卵巣への負担が最小限。

デメリット

薬を多く使用するため、身体への負担が大きくなることがある。
薬剤の副作用（例えば、むくみや気分の変化）が現れることもある。
薄い子宮内膜を改善するのが難しい場合がある。

向いている人

周期が不安定な方、または自然排卵や低刺激での調整が難しい方。
予定に合わせて治療を行いたい方。

 

いずれも妊娠率に大きな差はありません。
当院とご相談いただき、ベストな方法をご選択いただきます。

 

 胚移植当日とその後のスケジュール

移植の日から妊娠判定日までの過ごし方は、妊娠の成立に大きく関係するため、落ち着いた生活がポイントとなります。

移植当日の流れ

 診察・説明

当日のスケジュール、注意点、移植する胚の段階（初期胚か胚盤胞か）などが説明されます。

 超音波で子宮内膜を確認

経腟超音波を用いて子宮内膜の厚さや状態が着床に適しているかを確認します。

胚移植

最終確認された胚を細く柔らかいカテーテルによって胚を子宮の最適な位置（子宮底から1〜2cm付近）に移植します。
数分で終了し、多くの人が「内診と大きく変わらない程度」と感じる程度で、痛みはほとんどありません。

施術後

院内で10〜30分ほどで帰宅できます。
麻酔も使用しないため、身体への負担はほとんどありません。

 

移植後の過ごし方

基本的にはいつも通りの生活を送って構いませんが、「落ち着いた生活」を心がけましょう。
特別に何かをして着床を促すというより、体を冷やさず、睡眠を十分にとり、激しい運動や強いストレスを避けることが基本となります。
入浴も通常通り可能ですが、極端に長い入浴やサウナなどの体温が大きく上がる行為は避けたほうが安心です。
また、処方されたホルモン補充薬がある場合は、医師の指示通りに継続することも重要です。

移植後数日〜1週間で着床が始まるため、この時期は生活リズムを整えることが大切です。

判定日

2週間ほど過ごし、予定された妊娠判定日にクリニックで血液検査などを受け、妊娠の成立を確認します。

 

 

胚移植は、体外受精の中でも最も重要なステップの一つです。
胚の質、子宮内膜の状態、移植のタイミング、ホルモン補充など複数の条件が組み合わさって初めて妊娠が成立します。

当院では、患者様の身体の状態や治療経過に合わせ、最適な移植時期や補充方法をご提案し、安心して治療に臨んでいただけるようサポートいたします。
不安なことや気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。