体外受精
体外受精とは
体外受精(IVF:InVitroFertilization)とは、「女性の体外で卵子と精子を受精させ、受精卵(胚)を子宮に戻すことで妊娠を目指す」という生殖補助医療(ART)の一種です。
女性の体内で自然に行われる「受精」を、体外(invitro)で安全・確実に再現し、妊娠の可能性を高めることを目的としているため、自然妊娠が難しいカップルにとって有用な不妊治療法です。
体外受精は1978年、世界初の体外受精児ルイーズ・ブラウンさんがイギリスで誕生したことから始まりました。
その5年後の1983年には、日本でも東北大学のチームによって初の体外受精児の誕生が報告され、不妊治療の分野に大きな転機をもたらしました。
現在、日本では体外受精は不妊治療の中心的な役割を担っています。
日本産科婦人科学会(JISART)の報告によると、2022年には約50万件以上の体外受精が実施され、年間出生児のうち約15人に1人が体外受精によって生まれています。これは世界的にも非常に高い割合です。
体外受精の適応になる主な場合
体外受精の適応となるのは、さまざまな不妊の原因に基づいています。以下のような場合に、体外受精が検討されます。
- 卵管障害
卵管閉塞や癒着、卵管切除などがある場合、精子と卵子が自然に出会えません。
卵管の機能が正常でないと、受精ができないため、体外受精が必要になります。
- 男性側の問題(精子異常)
精子の数が極端に少ない、運動率が低い、形態が異常であるなど、精子の質に問題がある場合、通常の性交渉や人工授精では妊娠が難しくなります。
顕微授精(ICSI)を併用することで、精子を卵子に直接注入し、妊娠の可能性を高めます。
- 高年齢(35歳以上)
女性の加齢によって、卵子の質や数が低下します。
特に35歳以上の女性では、自然妊娠が難しくなることが多いため、体外受精が適応されます。
また、卵巣機能が低下している場合には、卵子提供など他の選択肢も考慮されることがあります。
- 一般不妊治療が効果を示さない場合
タイミング法や人工授精を半年以上試みても妊娠に至らない場合、体外受精が選択肢に挙がります。
原因不明の不妊の場合でも、体外受精によって妊娠の確率が上がることがあります。
- 卵巣機能不全やホルモン異常
卵巣機能が低下している場合や、排卵障害がある場合、自然周期での妊娠が難しくなります。
体外受精では、卵子を採取して人工的に受精させるため、排卵のタイミングに依存せずに治療が進められます。
- 遺伝的な問題や染色体異常のリスクがある場合
胚の段階で遺伝子診断(PGT)を行い、健康な胚を選んで移植することができます。
これにより、遺伝的な病気のリスクを減らすことができます。
- がん治療前などによる卵子・精子の凍結保存
がん治療や化学療法などで不妊になる可能性がある場合や、現在妊娠を望んでいないが将来妊娠を希望する場合に、卵子や精子を凍結保存することが一般的です。
この保存した卵子や精子を用いて体外受精で妊娠を目指すことが可能です。
体外受精の流れ
①卵巣刺激(排卵誘発)
自然周期では1個しか排卵されない卵子を、排卵誘発剤の使用によって複数の卵胞の発育と排卵を促します。超音波検査と血液検査により、卵胞の発育状況を細かくチェックしていきます。
卵胞の大きさが18mm以上になったら、排卵誘発剤(GnRHaやhCGなど)を投与して、排卵の準備を整えます。
②採卵と採精
▶採卵
排卵誘発剤(GnRHaやhCGなど)使用の約36時間後に採卵します。
経腟超音波で卵巣を確認しながら、細い針で卵胞に刺して卵子を採取します。
所要時間は10〜20分ほどで、無麻酔か麻酔を使うため、痛みは少ないか無痛です。
※状況により採卵ができない場合があります。
▶採精
採卵当日にパートナーが自宅で採取した精液をご持参いただきます。
※精子の数や運動率が極端に悪い場合は、対象のご夫婦の了解を得て顕微授精を行うことがあります。
③媒精(受精)
培養液内で卵子と精子を出会わせて受精させます。媒精方法は2種類あります。
- 体外受精(IVF)
卵子に多数の精子をふりかけて、自然に受精させる方法です。
- 顕微授精(ICSI)
1個の精子を、細いガラス管を用いて卵子の中に直接注入する方法で、精子の運動性や数が極端に低い場合や、前回受精しなかった場合に用いられます。
※媒精の成功率や、受精卵の質によって次の段階が決まります。
④胚培養
受精卵子を、専用の培養器で育て、細胞分裂を進行させます。
※培養の経過、受精卵の発育が停止した場合は移植できない場合があります。
⑤胚移植
カテーテルを使用し、子宮内に受精卵(胚)を移植します。麻酔は不要で、痛みもほとんどありません。
胚移植には2種類あります。
- 新鮮胚移植
数日培養した新鮮な受精卵(胚)をそのまま子宮に戻す方法です。
一般的には受精後2〜5日目に移植を行います。
- 凍結胚移植
受精卵を一度凍結保存し、後の周期で子宮の状態を整えてから融解して移植する方法です。
ホルモン刺激で子宮環境が不安定な場合や、複数個採卵できた場合に有利です。
※多胎は母児にリスクの高いため移植胚数は原則として1個に限定しております。(日本産科婦人科学会ガイドラインより)
⑥ホルモンの補充
黄体ホルモン(プロゲステロン)などを膣座薬や注射、内服薬などで補充し、子宮内膜を着床に適した状態にしたり、妊娠の継続を促します。
⑦妊娠判定
胚移植から10〜14日後に血液検査(hCG)で妊娠の有無を確認します。
※子宮外妊娠になる場合もあります。
体外受精の発展と課題
体外受精が増加した主な理由は、晩婚化や女性の社会進出により、初産年齢が上昇したことや、医療技術の進歩による妊娠成功率の向上などがあります。
また、2022年4月から体外受精などの生殖補助医療に公的医療保険が適用されたことも、件数増加の大きな要因でしょう。
今後は、AIを用いた受精卵の選別や、卵子・精子の質を高める個別化医療、卵子凍結による将来の妊娠選択の拡大など、新たな技術が進展すると考えられます。
体外受精は単なる医療技術にとどまらず、人生設計や社会のあり方にも深く関わる分野として、更なる発展が期待されています。
しかしながら、体外受精には多くの負担や不安が伴うのが現実です。
治療を始めたとしても「本当に妊娠できるのか」「何回挑戦しても結果が出ないかもしれない」といった先の見えない不安を抱える人は少なくありません。
体外受精は、一度で成功するとは限らず、複数回の治療を必要とすることも多いため、精神的なストレスが大きくなります。
さらに、採卵やホルモン注射、排卵誘発剤の使用など、身体への負担も無視できません。
これらの処置によって腹痛や倦怠感、ホルモンバランスの乱れが起きる場合もあります。
経済的な面でも、保険適用が始まったとはいえ、自己負担額は依然として高く、薬剤費や追加検査費、通院の交通費などを含めると、1回の治療で数十万円かかることもあります。
また、治療にかかる時間やスケジュール管理も難しく、仕事や家庭との両立に悩む人も多いです。
こうした精神的・肉体的・経済的な負担が重なり、途中で治療を断念するケースも少なくありません。体外受精は希望をつなぐ手段である一方で、その過程には現実的な困難が伴うことを理解することが大切です。
当院では、妊娠を望む患者様一人ひとりに寄り添い、安心して治療に臨める環境づくりを大切にしています。
医療的なサポートだけでなく、心理的ケアや生活支援にも力を入れ、患者様が安心して希望を持てるよう努めています。
