不育症検査
1. 不育症とは
不育症とは、妊娠は成立するものの、流産や死産、あるいは早期新生児死亡を繰り返してしまい、結果的に児を得られない状態を指します。
一般的には「2回以上の流産」を繰り返した場合に不育症の可能性があるとして、検査が検討される対象となります。
流産自体は全妊娠の約15%という決して珍しくない頻度で起こる現象であり、その多くは胎児(受精卵)の染色体異常による偶発的なものです。
しかし、流産を繰り返す場合には、ご夫婦の側に何らかの要因が隠れている可能性を考慮し、検査を行うことで次の妊娠への対策を立てることが可能になります。
不育症の主な原因について
不育症の要因は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下の4つが挙げられます。
- 抗リン脂質抗体症候群(自己免疫異常)自分の体を攻撃してしまう抗体(自己抗体)が原因で、胎盤付近で血栓(血の塊)ができやすくなる状態です。血流が阻害されることで、赤ちゃんに栄養が届きにくくなり、流産を引き起こすとされています。
- 子宮形態異常 双角子宮や中隔子宮など、子宮の形に先天的な特徴がある場合です。受精卵が着床するスペースが狭かったり、血液供給が十分でなかったりすることが要因となり得ます。
- 内分泌異常(ホルモン異常) 甲状腺機能の異常、糖尿病、黄体機能不全などが含まれます。母体の代謝状態が不安定であると、妊娠の維持に影響を及ぼすことがあります。
- 夫婦いずれかの染色体構造異常 ご夫婦のいずれかに「均衡型転座」などの染色体構造の変化がある場合です。ご本人たちの健康には全く影響ありませんが、生殖細胞(卵子・精子)が作られる過程で遺伝情報の過不足が生じやすく、それが流産の原因となることがあります。
要因の割合(報告例)
不育症の検査を受けても、実は「原因が特定できない(偶明原因、あるいはリスク因子不明)」というケースが全体の約半数を占めると報告されています(※1)。
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リスク因子不明:約45〜50%
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抗リン脂質抗体症候群:約10〜15%
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子宮形態異常:約5〜10%
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夫婦いずれかの染色体構造異常:約2〜5%
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その他(内分泌異常、凝固異常など):約20〜30%
「原因不明」と聞くと不安に思われるかもしれませんが、その多くは「次回の妊娠で無事に出産できる可能性が十分に高い」ことを示唆しています。
不育症検査の必要性があるとされる場合
不育症の定義は「2回以上の流産」ですが、状況によっては1回の流産後でも検査を検討することがあります。
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2回連続して流産(習慣流産)を経験した
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過去に妊娠10週以降の死産を経験した
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ご本人が血栓症(エコノミークラス症候群など)の既往がある
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ご本人が膠原病や甲状腺疾患などの持病を持っている
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染色体異常によらない流産である可能性が高いと判断される場合
不育症の費用について(助成金)
不育症検査は、一部保険適用されるものと、自費診療となるものが混在しています。
全ての検査を網羅的に行う場合、自己負担額は数万円〜十数万円に及ぶことがあります。
現在、多くの自治体では「不育症検査費用助成事業」が実施されています。
これは、指定された不育症検査にかかった費用の一部(上限額あり)を公費で補助する制度です。
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対象者:2回以上の流産、死産の既往がある方などが一般的です
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申請先:お住まいの市区町村の保健センターや福祉局
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必要書類:医療機関が発行する受診証明書や領収書
助成の対象となる検査項目や金額は自治体によって異なるため、お住まいの地域の最新情報を確認することをお勧めします。
2. 不育症検査について
不育症検査でわかること
検査の目的は、「次の妊娠を継続させるために、事前の対策が可能かどうか」を見極めることです。
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血液の状態:血が固まりやすい体質(血栓傾向)がないか
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免疫の状態:赤ちゃんを異物として攻撃してしまう因子がないか
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子宮の形状:受精卵が育つための環境が整っているか
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ホルモンバランス:妊娠を維持するためのエンジンが正常に働いているか
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遺伝的因子:流産の確率に影響を与える染色体の特徴があるか
これらを明らかにすることで、闇雲に次の妊娠を待つのではなく、医学的根拠に基づいた準備(投薬治療など)が可能になります。
不育症検査を受けるタイミング
基本的には「流産手術後、月経が1〜2回再開し、体が妊娠前の状態に回復してから」行うのが一般的です。
妊娠中や流産直後は、ホルモンバランスや免疫状態が通常とは異なるため、正確な判定ができない項目があります。
特に自己抗体や凝固因子の検査は、妊娠の影響が落ち着いた時期に実施することが推奨されます。
また、治療が必要と判断された場合、その治療を次の妊娠「前から」開始する必要があるため、妊活を再開する前に受診することが大切です。
不育症検査の流れ
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カウンセリング・問診 これまでの妊娠歴、流産に至った時期や状況、既往歴を詳しくお伺いします。
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スクリーニング検査(採血・超音波)
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血液検査:凝固因子、抗リン脂質抗体、甲状腺機能、血糖などを調べます。
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経腟超音波検査:子宮の形態や筋腫の有無を確認します。
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精密検査(必要に応じて)
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子宮鏡検査/子宮卵管造影検査:子宮内部の詳細な形を調べます。
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夫婦染色体検査:同意に基づき、ご夫婦それぞれの染色体を調べます。
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結果説明と治療方針の決定 すべての結果が揃うまでに数週間かかる場合があります。検査結果に基づき、どのような対策(アスピリン療法やヘパリン療法など)を講じるか相談します。
3. 不育症の治療について
不育症の治療は、検査で見つかったリスク因子(要因)に合わせて選択されます。
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抗リン脂質抗体症候群・凝固異常の場合 「低用量アスピリン療法」や「ヘパリン療法(自己注射)」による抗凝固療法が行われます。血栓ができるのを防ぎ、胎盤の血流を維持することで、流産率を劇的に下げることが可能です。
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子宮形態異常の場合 中隔子宮などで流産を繰り返す場合、手術(子宮鏡下中隔切除術など)を検討することがあります。ただし、形に特徴があってもそのまま出産できるケースも多いため、手術の適応は慎重に判断されます。
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内分泌異常の場合 甲状腺機能のコントロールや、糖尿病の治療、黄体ホルモン補充などを行います。母体のコンディションを整えることが、赤ちゃんの成長を支える土台となります。
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原因不明(リスク因子不明)の場合 特定の治療を行わなくても、次回の妊娠で無事に出産できる確率は約70〜80%とも言われています。当院では「テンダーラビングケア(TLC)」、すなわち精神的なサポートと頻回な超音波診察により、妊婦さんの不安を和らげながら経過を見守る方針を大切にしています。
流産という悲しい経験を繰り返された方が、自分自身を責めてしまったり、次の妊娠を恐れてしまったりするのは、無理のないことです。
しかし、不育症は決して「妊娠できない体」であることを意味しません。
むしろ、検査を通じてリスクを知り、適切な治療やサポートを受けることで、多くの方が元気な赤ちゃんを抱くという願いを叶えています。
当院は未来へ向けて一緒に歩き出すお手伝いをさせていただきます。
参考文献リスト (※1)厚生労働省 研究班「不育症管理に関する提言 2021」 (※2)日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編」
