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顕微授精(ICSI)

 顕微授精とは

「体外受精をしても受精しなかった」「精子の数が少ないと診断された」――
そんなときに選択肢となるのが、顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)です。

体外受精(IVF)は、卵子と精子を体外で受精させ、できた受精卵(胚)を子宮に戻す不妊治療です。
その中でも、卵子に精子を振りかけて自然に受精させるのが「ふりかけ法(IVF)」、顕微鏡下で精子を卵子に直接注入するのが「顕微授精(ICSI)」です。

顕微授精(ICSI)は、1980年代後半にヨーロッパで研究が進み、1992年ベルギーで世界初の顕微授精児が誕生しました。
この成功は、それまで治療が難しかった重度の男性不妊に大きな希望をもたらし、「生殖医療の革命」と呼ばれました。
日本でも1990年代半ばに導入され、1994年には国内初の顕微授精による妊娠例が報告されています。

顕微授精は当初、男性不妊のみに限定された治療法でしたが、現在では「ふりかけ法で受精しなかった場合」や「精子の運動率・形態に問題がある場合」にも広く用いられています。
技術の進歩により、1個の精子からでも受精・妊娠が可能となり、妊娠への新たな道を切り開きました。

2020年代の日本では、体外受精全体の約半数以上が顕微授精によって行われており、今や標準的な不妊治療のひとつとして定着しています。
安全性も高く、自然妊娠との間で大きな健康上の差はないと報告されています。


 顕微授精が選ばれる理由と適応になる主な場合

 顕微授精が最も多く選ばれる理由は、男性不妊です。
不妊の原因は、男性に原因がある場合(約24%)と、男女双方に原因がある場合(約24%)を合わせると、
男性側にも原因がある割合は約半数(約48%)になります。
精子の数や運動率が低いと、自然な受精が難しくなるため、顕微授精によって「確実な受精」を目指します。

 

 顕微授精の主な適応

  •  精子の数が極端に少ない(乏精子症)
  •  精子の動きが悪い(精子無力症)
  •  射精障害、または閉塞性無精子症
  •  精子の形態異常が多い
  •  抗精子抗体による免疫性不妊
  •  通常の体外受精で受精しなかった場合

 

 顕微授精の流れと治療スケジュール

顕微授精の基本的な流れは体外受精とほぼ同じですが、「受精方法」が異なります。
1サイクルの目安は約4〜6週間です。

 ① 排卵誘発(卵巣刺激)

ホルモン注射や内服薬で卵巣を刺激し、複数の卵子を育てます。
医師が超音波・血液検査で慎重に排卵のタイミングを確認します。

 

 ② 採卵

卵胞が成熟したタイミングで、経膣超音波下に採卵を行います。
麻酔を使用するため痛みは少なく、採取後すぐに培養室で顕微授精の準備を行います。

 

 ③ 採精

採卵当日にパートナーが自宅で採取した精液をご持参いただきます。

 

④ 顕微授精(媒精)

胚培養士が顕微鏡下で良好な精子を1個選び、細いガラス針で卵子の中に注入します。
この工程は非常に繊細であり、培養士の熟練度が受精率に大きく影響します。

 

 ⑤ 胚培養

受精が確認された胚は3〜7日間培養します。
良好な胚は「新鮮胚移植」または「凍結保存」され、子宮内膜の状態に合わせて移植します。

 

 ⑥ 胚移植

子宮環境を整え、最も良好な胚を1個子宮に戻し、移植後はホルモン補充などで着床をサポートします。



 顕微授精の費用・成功率・リスクについて

以前は1回30〜60万円前後でしたが、2022年4月から保険適用となりました。
治療開始時の妻の年齢が43歳未満など一定の条件がありますが、保険適用が拡大されたことが厚労省より案内されていますのでご確認ください。

また、国の制度に加え、各自治体が助成または先進医療併用助成を設けています。
例えば、東京都では「東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業」という制度があります。

これは、保険適用された特定不妊治療と併せて実施した「先進医療」にかかる費用のうち、自己負担分の一部を助成する制度です。

市区町村においても補助金を制定している場合がありますので、治療開始前に確認しておくのが安心です。

ただし、薬剤費・凍結保存料・検査費などは別途かかる場合もありますので、こちらは各クリニックにて確認をしたほうが良いでしょう。

 

成功率(妊娠率)

30代前半では約40%程度ですが、30代後半には約30%、40代前半は約15〜20%と年齢が上がるにつれて妊娠率の低下が見られます。
顕微授精は「受精の成功率を上げる治療」であり、「妊娠率を上げる治療」ではありません。
卵子の質や子宮環境など、女性側の要因にも留意する必要があります。

 顕微授精の主なリスク

 ◆ 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

排卵誘発剤に対して卵巣が過剰反応し、腫れや腹水がたまる状態のことです。
軽度であれば腹部の張りや軽い痛みで済みますが、重症化すると呼吸困難や血栓症を伴うこともあります。
医師はホルモン値を細かくチェックし、必要に応じて凍結全胚移植でリスクを回避します。

 

 ◆ 多胎妊娠

顕微授精で得られた受精卵を複数移植した場合、双子や三つ子などの多胎妊娠が起こることがあり、母体にも胎児にも大きな負担がかかります。
早産・低出生体重児・妊娠高血圧症候群・帝王切開のリスクが上がるため、近年では単一胚移植(1個の胚を戻す方法)が主流となっています。

当院でも、患者さん一人ひとりの年齢や胚の状態を見極めながら、最適な胚の数を慎重に判断しています。

 

 ◆ 流産(自然妊娠と同程度)

顕微授精での妊娠も、流産率は自然妊娠とほぼ同じです。
主な原因は治療方法ではなく、卵子の染色体異常や加齢による卵子の質の低下です。

最近では着床前検査(PGT-A)の着床前検査(PGT-A)などを併用することで、より良好な胚を選択し、流産リスクを減らす取り組みも進んでいます。

 

 顕微授精を始める前に知っておきたい4つのこと

  • 年齢と卵子の質は密接に関係する

    卵子の質は加齢とともに低下し、特に35歳以降は妊娠率が下がります。
  早めの受診・相談が妊娠することへの近道です。

  • 精子の状態も妊娠率を左右する

    男性側の検査・生活改善も同時に行うことが大切です。
  喫煙・ストレス・生活習慣は精子に大きく影響します。男性側のケアも欠かせません。

  • 経済的・精神的な負担を理解する

    顕微授精は1回で結果が出るとは限らず、治療の継続には心身のサポートが欠かせません。治療のペースや費用について夫婦で無理のない計画を立てましょう。

  • クリニック選びは慎重に

    成功率だけでなく、医師の説明、培養士の技術、培養環境(ラボの設備)も重要です。
  納得して治療を進められるクリニックを選ぶことが、成功への第一歩です

 

 顕微授精は「受精の壁」を越えるための治療法

顕微授精(ICSI)は、精子や卵子の状態に課題がある場合でも受精を可能にする治療法です。
男性不妊が原因でも、顕微授精を通じて妊娠・出産を目指せるケースが増えています。

一方で、治療には費用・時間・心身の負担も伴います。
不妊治療専門医のもとで十分に相談し、夫婦で納得したうえで進めることが大切です。

当院では、生殖医療専門医と胚培養士がチームでサポートいたします。

初診相談・セカンドオピニオンも随時受け付けていますので、どうぞお気軽にご相談ください。

 

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