栄養バランス検査
1. 妊活・不妊治療と栄養の関わり
妊娠を望む方や不妊治療に取り組む方にとって、日々の食事や栄養状態を整えることは、治療の成果を支える大切な「土台作り」といえます。
なぜ「検査」が必要なのか
多くの現代人は、カロリーは足りていても特定のビタミンやミネラルが不足している「新型栄養失調」の状態にあると指摘されています(※1)。
バランスの良い食事を心がけていても、体質や生活習慣によって、特定の栄養素がうまく吸収されていなかったり、消費が激しかったりすることがあります。
「なんとなく体に良さそう」という主観的な判断ではなく、血液検査によって客観的な数値を把握することで、今の自分の体に本当に必要なアプローチが見えてきます。
卵子・精子の質への影響
卵子や精子の形成には、数ヶ月の期間を要します。
その過程で、細胞の酸化を防ぐ抗酸化物質や、正常な細胞分裂を助けるビタミン群が十分にあることは、質を維持するための重要な要素とされています(※2)。
特に体外受精(IVF)などの高度生殖医療において、卵子の質の向上を目指す際、栄養状態の改善は数少ない「自分で取り組める選択肢」の一つとなります。
着床と妊娠維持を支える土台
受精卵が着床する子宮内膜の環境を整えるためにも、栄養は欠かせません。
例えば、ビタミンDは着床環境や免疫の調整に関与しているという報告があり(※3)、鉄分は全身へ酸素を運ぶだけでなく、子宮内膜を厚くするためにも必要な栄養素です。
検査を通じてこれらの不足を確認し、補っておくことは、スムーズな妊娠・継続をサポートすることにつながります。
2. 栄養バランス検査とは
当院で行う栄養バランス検査(栄養解析)は、一般的な健康診断の血液検査とは異なる視点で行われます。
一般的な血液検査との違い
健康診断での血液検査は、主に「病気があるかないか」を判定するための「基準値」を用います。
一方、栄養解析では「体が健やかに機能し、妊娠を維持するために理想的な状態か」という「最適値(ターゲット値)」を重視します。
例えば、鉄分不足を評価する「フェリチン値」が基準値内であっても、妊活においてはより高い数値が望ましいとされるケースがあります。
このように、一見「異常なし」とされる結果の裏に隠れた栄養不足を見つけ出すのが特徴です。
検査で把握できる項目
当院の検査では、以下のような多角的な項目を解析します(※検査プランにより異なります)。
- タンパク質の充足度: 体の細胞を作る基本材料
- 各種ビタミン類: 葉酸、ビタミンB群、ビタミンD、A、C、Eなど
- ミネラルバランス: 鉄(フェリチン)、亜鉛、マグネシウム、カルシウムなど
- 糖代謝・脂質代謝: エネルギーを効率よく生み出せているか
- 酸化ストレスの状態: 細胞のダメージの程度
受診から結果までの流れ
検査は通常の採血で行われます。
- カウンセリング: 現在の食生活や気になる症状、治療状況を伺います。
- 採血: 医療機関ならではの精密な解析に必要な項目を測定します。
- 解析: 専門の解析機関にて、詳細なレポートを作成します。
- 結果説明: 数週間後、医師が結果に基づき、現在の状態と今後のアドバイスをお伝えします。
3. 妊活中に注目すべき栄養素
栄養は相互に作用し合うため、全体のバランスが重要ですが、妊活において特に議論されることが多い栄養素を紹介します。
- 葉酸とビタミンB群: 赤ちゃんの神経管閉鎖障害の予防として有名ですが、細胞分裂を助ける役割もあり、卵子の成熟にも関わります(※4)。
- ビタミンD: 近年、不妊治療領域で非常に注目されています。卵巣機能や子宮内膜の受容性に関わるとされており、現代女性に最も不足しがちな栄養素の一つです(※5)。
- 鉄(フェリチン): 月経がある女性は慢性的に不足しやすい傾向にあります。血液中のヘモグロビン値が正常でも、貯蔵鉄(フェリチン)が少ない「隠れ貧血」の状態では、卵巣への血流や着床に影響を与える可能性があります。
- 亜鉛: 細胞分裂に不可欠なミネラルで、女性の卵子の質の維持だけでなく、男性の精子形成や運動率にも深く関わっています。
- 抗酸化成分(ビタミンC、E、CoQ10など): 加齢やストレスによる細胞の「酸化(サビ)」は、卵子や精子の質を低下させる原因の一つです。これらを適切に補うことで、酸化ストレスから細胞を守る効果が期待されています。
4. 検査をおすすめしたい方
栄養バランス検査は、すべての方に「受けなければならない」と強制するものではありません。しかし、以下のような状況にある方にとっては、現状を把握するための有効な手段となります。
- これから妊活・不妊治療をスタートする方:
まず自分の体のコンディションを知り、効率的な土台作りから始めたい場合に適しています。 - 治療のステップアップを考える方:
人工授精から体外受精へ進む際など、治療が高度になる前に、成功率を支えるための体の準備として受けるケースが多いです。 - 体外受精(IVF)で良好な結果を目指したい方:
採卵しても卵子の質が安定しない、着床がなかなか進まないといった場合に、栄養面からのアプローチを検討されることがあります。 - 食事には気をつけているが、客観的な数値を知りたい方:
「今の食事で本当に足りているのか」という不安を、具体的な数値で解消し、納得感を持って妊活に取り組みたい方に推奨されます。
5. 男性も検査を受けるメリット
「不妊治療は女性が中心」と思われがちですが、赤ちゃんの情報の半分は男性側からのものです。
精子の状態と栄養の関係
精子の数、運動率、そしてDNAの健全性は、男性の栄養状態に大きく左右されます。特に精子は酸化ストレスに弱いため、抗酸化作用のある栄養素(ビタミンC、E、リコピンなど)や、精子を作るのに必要な亜鉛が不足していないかを確認することは非常に有意義です(※6)。
夫婦で取り組む意義
二人で検査を受けることは、妊活を「自分事」として共有するきっかけになります。
同じ目標数値に向かって食生活を改善したり、サプリメントを導入したりすることで、精神的な一体感も生まれやすくなります。
6. 検査結果をこれからの生活に活かすには
検査結果は、単に「不足を見つける」ためだけのものではありません。
医師と一緒に振り返る
数値の結果をどう解釈するかは専門的な知見が必要です。
当院では医師が結果を丁寧に説明し、現在の治療ステージにおいてどの栄養素を優先すべきかをアドバイスします。
自分に合ったサプリメント選び
「話題だから」「みんなが飲んでいるから」とサプリメントを選んでいませんか?
検査数値に基づけば、過剰摂取のリスクを避けつつ、自分に本当に足りないものだけを効率よく補うことができます。
医療機関専用の、吸収率や品質にこだわったサプリメントの提案も可能です。
今日からできる食事の工夫
サプリメントはあくまで補助です。基本は日々の食事にあります。
「タンパク質が不足気味なので、朝食に卵をプラスする」「ビタミンDを補うためにキノコ類や魚を増やす」など、数値という根拠があることで、毎日の食事作りがより前向きなものへと変わります。
栄養療法は「より良い選択をするための情報提供」と考えています。
また、自分の体の栄養状態を数値化し、具体的に改善できるポイントが見つかることは、大きな安心感や「自分でコントロールできている」という自信につながります。
私たちは、検査を通じて皆様が安心して、前向きに通院できる環境作りを目指しています。
参考文献リスト
- ※1 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
- ※2 Silvestris E, et al. Nutrition and Female Fertility: An Interdependent Correlation. Front Endocrinol (Lausanne). 2019.
- ※3 Chu J, et al. Vitamin D and assisted reproductive treatment outcome: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod. 2018.
- ※4 Gaskins AJ, Chavarro JE. Diet and fertility: a review. Am J Obstet Gynecol. 2018.
- ※5 Pilz S, et al. The Role of Vitamin D in Fertility and during Pregnancy and Lactation: A Review of Clinical Data. Int J Environ Res Public Health. 2018.
- ※6 Salas-Huetos A, et al. Diet and sperm quality: a systematic review of observational studies. Hum Reprod Update. 2017.
(※URL等は実在の最新ガイドラインや論文データベースに基づきます)
