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甲状腺機能検査

1. 甲状腺ホルモンと妊娠の関係

甲状腺と甲状腺ホルモンの役割

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある蝶のような形をした、重さ15〜20gほどの小さな臓器です。
ここから分泌される「甲状腺ホルモン」は、全身の細胞の代謝を活性化させる、いわば「体のエンジン」を動かす役割を担っています。

甲状腺ホルモンは、心拍数や体温の調節、骨や神経の成長、そして女性にとって非常に重要な「生殖機能」の維持に深く関わっています。
脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって分泌量が一定に保たれており、このバランスが崩れると全身にさまざまな影響が及びます。

甲状腺の病気

甲状腺の病気は大きく分けて、ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症」と、不足する「甲状腺機能低下症」の2種類があります。

  1. 甲状腺機能亢進症(代表例:バセドウ病)
    自己抗体が甲状腺を過剰に刺激し、ホルモンが過剰に分泌されます。
    動悸、体重減少、多汗、手の震えなどの症状が現れます。
  2. 甲状腺機能低下症(代表例:橋本病)
    慢性的な炎症により甲状腺組織が壊され、ホルモンが不足します。無気力、冷え、むくみ、体重増加、便秘などが主な症状です。

また、血液検査上の数値には異常があっても自覚症状がない「潜在性甲状腺機能異常」という状態も存在します。

甲状腺の病気と不妊

甲状腺ホルモンは、卵巣の成熟や排卵、受精卵の着床といったステップにおいて重要な働きをしています。
そのため、甲状腺機能に異常があると、以下のような不妊・不育のリスクが高まることが報告されています。

  • 排卵障害:ホルモンバランスが崩れることで排卵が不規則になったり、無排卵周期になったりすることがあります。
  • 着床不全:子宮内膜の状態に影響を与え、受精卵が着床しにくくなる可能性が示唆されています。
  • 初期流産のリスク増加:特に甲状腺機能低下症や、抗体(抗TPO抗体など)が陽性の場合、妊娠を維持する力が弱まり、流産率が高まるとされています(※1)。

不妊治療を受けている女性の約5〜10%に何らかの甲状腺機能異常が見つかるともいわれており、自覚症状がなくても検査を受ける意義は非常に大きいと考えられています。

甲状腺検査を受けたほうがいい人

以下に当てはまる方は、妊娠前や不妊治療の初期段階で甲状腺検査を受けることが推奨されます。

  • 月経不順や無月経がある
  • 過去に流産や死産を経験している
  • 不妊治療(人工授精・体外受精など)を検討している
  • 家族に甲状腺疾患の既往がある人がいる
  • 原因不明の体調不良(強い倦怠感や動悸など)が続いている

 

2. 甲状腺機能検査について

検査の流れ

甲状腺機能検査は、通常、初診時のスクリーニング検査(採血)とともに行わることが多いです。
特別な準備や絶食の必要はなく、通常の不妊スクリーニング検査と同じタイミングで実施可能です。

  1. 問診:既往歴や家族歴、自覚症状の有無を確認します。
  2. 採血:血液中のホルモン濃度や抗体の有無を調べます。
  3. 結果説明:通常、1週間程度で結果が出ます。数値に異常がある場合は、専門医による診断や治療の要否を検討します。

検査項目

一般的に不妊治療の現場で行われる主な検査項目は以下の通りです。

  1. TSH(甲状腺刺激ホルモン)
    脳から出される「甲状腺にホルモンを出せ」という命令のホルモンです。
    甲状腺ホルモンが足りないと数値が上がり、多すぎると数値が下がります。不妊治療においては最も重要な指標の一つです。
  2. FT4(遊離サイロキシン)
    血液中を流れる活動性の甲状腺ホルモンそのものです。
  3. FT3(遊離トリヨードサイロニン)
    FT4とともに、実際の甲状腺機能の状態を把握するために測定されます。
  4. 甲状腺自己抗体(抗TPO抗体・抗Tg抗体)
    自分の甲状腺を攻撃してしまう抗体の有無を調べます。
    これらが陽性の場合、現在はホルモン値が正常であっても、将来的に異常をきたす可能性や流産リスクとの関連が考慮されます。

※※妊娠希望者におけるTSHの基準値※※

一般的な健康診断でのTSH基準値は概ね「0.4〜4.0mIU/L」程度ですが、妊娠を希望する女性においては「2.5mIU/L以下」にコントロールすることが望ましいとされています(※2)。
これは、妊娠初期の胎児の成長には母親の甲状腺ホルモンが不可欠であり、余裕を持った数値で維持しておくことが、妊娠継続と胎児の健やかな発達を助けると考えられているためです。

 

3. 甲状腺ホルモンに異常があった場合

妊娠前の治療

検査の結果、数値に異常が見つかった場合でも、適切な治療によってホルモンバランスを整えれば、自然妊娠や不妊治療による妊娠の可能性は十分に保たれます。

  • 機能低下症(TSHが高い場合)
    不足している甲状腺ホルモンを補う薬を服用します。
    この薬は体内で作られるホルモンと同じ成分であるため、適切に服用すれば副作用はほとんどなく、妊娠中も安全に使用できます。
  • 機能亢進症(TSHが低い場合)
    甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬を服用します。
    ただし、薬の種類によっては妊娠初期への影響が懸念されるものがあるため、妊娠を計画している段階で最適な薬剤への切り替えや用量の調整を行います。

不妊治療(体外受精など)を行っている場合は、ホルモン値が安定するまで移植の時期を調整するなど、個々の状況に合わせたスケジュール管理を行います。

妊娠中の治療

妊娠が成立すると、母親の体は赤ちゃんにホルモンを供給するために、より多くの甲状腺ホルモンを必要とします。
そのため、妊娠前から服用している方は、妊娠判明後すぐに用量を増やす調整が必要になることが一般的です。

  • 定期的な血液検査:妊娠初期は4週間ごとなど、頻繁に採血を行い数値をチェックします。
  • 目標値の維持:妊娠時期に合わせて、TSHを適切な範囲(2.5〜3.0mIU/L以下など)に保つよう細かく調整します。

自己判断での服用中止は、流産のリスクを高めたり胎児の発達に影響を与えたりする可能性があるため、必ず医師の指示に従うことが重要です。

出産後の治療

出産後は、妊娠中に増大したホルモン需要が元に戻るため、再び薬の量を調整します。

  • 産後のホルモン変化:出産後数ヶ月は、一時的に甲状腺機能が不安定になる「産後甲状腺炎」が起こりやすい時期でもあります。
  • 授乳について:チラージンなどの補填療法であれば、授乳中も継続して服用可能です。

育児の忙しさから通院が途絶えがちになる時期ですが、ご自身の健康と将来の第2子妊娠の可能性も見据え、継続的な経過観察をお勧めしています。

 

甲状腺の異常は、自覚症状がないまま不妊の原因となっているケースが少なくありません。
しかし、それは「適切なケアをすれば解決できる課題」が見つかったということでもあります。
私たちは、不妊治療の専門知識と最新のエビデンスに基づき、甲状腺機能の管理を含めたトータルなサポートを行っています。

「検査で何か見つかったら怖い」「薬を飲み続けるのは抵抗がある」といった不安も、ぜひお聞かせください。

一歩踏み出すあなたの味方として、ここでお待ちしております。

 

参考文献リスト

(※1)日本甲状腺学会「甲状腺疾患診療ガイドライン2021」

(※2)American Thyroid Association (ATA) Guidelines, 2017

(※要出典確認)妊娠と甲状腺機能に関する最新のメタアナリシスデータ

 

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