着床不全検査
1.着床不全とは
妊娠は受精卵が子宮内膜に着床することで成立します。
自然妊娠が難しい場合には人工授精や体外受精を行うこともあります。
体外受精において、良好な受精卵を移植しても妊娠に至らない状態を着床不全(着床障害)といいます。
その中でも、良好胚移植を複数回行っても妊娠に至らない状態は「反復着床不全(RIF)」と呼ばれます(※1)。
ただし、明確な定義は統一されていません。
なお、人工授精は精子を子宮内に送る手法で、人工授精を繰り返しても妊娠しない場合は着床不全とは区別されます。
不育症と着床不全の違いについて
着床不全は妊娠が成立する前の段階での問題です。
一方、不育症は妊娠成立後に流産を繰り返してしまう状態を指します。
検査内容には一部共通するものもありますが、「胚が子宮に着床できない原因を探すこと」が着床不全検査で、「妊娠はするが流産してしまう原因を探すこと」が不育症検査という違いがあります。
2.着床不全が起こる主な原因
着床不全の原因は、大きく分けて以下のような要因が考えられます。
子宮内膜に関する問題
子宮内膜が受精卵を受け入れる準備が整っていない状態です。
子宮内膜の厚さが不十分だったり、逆に厚すぎたりする場合があります。
また、慢性子宮内膜炎という炎症が続いている状態では、着床しにくくなります。
子宮内膜ポリープや子宮筋腫なども着床を妨げる要因になることがあります。
子宮の形態的な問題
生まれつき子宮の形が通常と異なる場合(中隔子宮、双角子宮など)や、子宮内腔が癒着している状態(アッシャーマン症候群)では、着床に影響が出ることがあります。
受精卵(胚)の問題
受精卵の染色体に異常がある場合、着床できなかったり、着床しても妊娠が継続できなかったりします。
特に年齢が上がるにつれて、染色体異常のある受精卵の割合は増えていきます。
また、受精卵の発育状態や質も着床に関わってきます。
免疫学的な問題
本来、母体の免疫システムは受精卵を異物として攻撃しないように調整されていますが、このバランスが崩れると着床を妨げることがあります。
自己抗体(抗リン脂質抗体など)が関与している場合もあります。
血流の問題
子宮内膜への血流が不十分だと、受精卵に栄養が届きにくくなります。
血液が固まりやすい体質(血栓傾向)も着床に影響することがあります。
ホルモンバランスの問題
黄体機能不全など、妊娠の維持に必要なホルモンが十分に分泌されていない場合、着床が妨げられることがあります。
甲状腺ホルモンの異常も影響する可能性があります。
子宮内細菌叢(フローラ)の乱れ
子宮内には通常、ラクトバチルスという善玉菌が多く存在していますが、このバランスが崩れると着床しにくくなるという研究結果があります。
これらの原因は単独ではなく、複数が組み合わさっていることも多く、特定が難しいケースもあります。
そのため、様々な角度から検査を行い、総合的に判断していく必要があります。
3.着床不全検査の種類と内容
当院で行う検査は以下の通りです。
ERA検査(子宮内膜受容能検査)
子宮内膜が受精卵を受け入れやすい状態になっているかを調べる検査です。
子宮内膜には着床しやすい限られた期間があると考えられており、子宮内膜を少量採取して遺伝子の働きを解析することで、その時期が合っているかどうかを評価します。
EMMA・ALICE(子宮内細菌叢検査)
子宮内の細菌環境を調べる検査です。
EMMAでは子宮内に存在する善玉菌とされる乳酸菌の割合を評価し、ALICEでは慢性的な子宮内膜の炎症に関与すると考えられている細菌の有無を確認します。
子宮内フローラ検査
子宮内に存在する細菌の種類やバランスを調べる検査です。
EMMAと同様に、乳酸菌の割合や炎症に関与する細菌の有無などを評価します。
ERPeak検査(子宮内膜胚受容期検査)
子宮内膜が受精卵を受け入れやすい時期を評価する検査です。
子宮内膜を採取し、分子レベルの解析を行うことで、着床に適した時期がいつ頃と考えられるかを推定します。
他にも血液検査や子宮鏡検査(ヒステロスコピー)などがあり、医師が診療状況を踏まえて慎重に判断します。
検査の有効性や適応については個人差があります。
各検査の費用と助成金について
不育症を含め、不妊治療には国や自治体からの助成金といった公的支援があります。
ただし、着床不全に特化した助成制度は一般的にありません。
それでは公的支援を全く受けられないのかというと、そうではありません。
不育症検査の助成制度の中には、着床不全の検査と重複する項目が含まれているからです。
たとえば、抗リン脂質抗体などの血液検査、甲状腺機能検査、凝固系の検査、子宮形態の評価(超音波・子宮鏡など)といった検査項目が該当する場合があります。
助成金制度は各自治体によって内容が異なりますので、お住まいの自治体に確認してみましょう。
その際は「着床不全」という診断名ではなく、具体的な検査項目で問い合わせることをお勧めします。
また、医師に助成金について相談してみるのも一つの方法です。
4.着床不全検査の結果と治療の考え方
着床不全の検査結果は、「この治療をすれば必ず妊娠できる」というものではありません。
検査で得られた情報をもとに、医師が原因として考えられる要因を整理し、一緒に治療方針を検討していきます。
治療は検査結果に応じて以下のように個別に判断されます。
子宮内膜の受容期にずれがある可能性
ERA検査やERPeak検査などで、着床に適した時期が一般的な移植日と異なる可能性が示された場合は、胚移植の時期を調整することがあります。
これは「個別化胚移植」という考え方で、検査結果を参考に移植日を見直していきます。
子宮内の細菌バランスや慢性炎症の可能性
EMMAやALICE、子宮内フローラ検査で細菌バランスの乱れや慢性子宮内膜炎の可能性が示された場合は、抗菌薬の投与などを検討することがあります。
治療後、必要に応じて再評価を行います。
子宮の形に問題が見つかった場合
子宮ポリープ、粘膜下筋腫、癒着などが確認された場合には、手術などの処置を検討することがあります。
処置が必要かどうかや時期については、症状や大きさなどを総合的に判断します。
血液検査で凝固異常や自己抗体が見つかった場合
抗リン脂質抗体や凝固系の異常などが認められた場合、低用量アスピリンやヘパリンなどの使用を検討することがあります。
適応については慎重に判断する必要があります。
ホルモンの異常が認められた場合
甲状腺機能の異常や黄体機能不全などが確認された場合は、ホルモン補充療法などを行うことがあります。
免疫に関する異常の可能性
免疫バランスに関連する検査結果が得られた場合、医師の判断のもとで治療を検討することがあります。
ただし、この分野は現在も研究が続いており、どのような場合に有効かについては慎重な検討が必要とされています。
5.大手町ARTクリニックについて
着床不全の原因は一つとは限らず、いくつかの要因が重なっている場合もあります。
また、すべての検査結果に対して確立された治療法があるわけではありません。
検査結果はあくまで診療の参考情報です。
当院では、結果を踏まえて医師と相談しながら治療方針を決めていくことを大切にしています。
まずはご相談ください。
参考文献リスト
