卵子凍結について(未受精卵凍結)
1.卵子凍結
卵子凍結とは
卵子凍結とは、将来の妊娠に備えて自分の卵子を採取し、凍結保存しておく方法です。
将来は子どもを望みたいと考えているものの、今は仕事や学業、パートナーの状況などさまざまな理由で妊娠のタイミングではないという方が増えています。
そのような背景の中で選択肢の一つとして知られるようになりました。
女性の卵子は生まれたときから体内に存在しており、新たに作られることはありません。
また、年齢を重ねるごとに卵子の数は減少し、質も低下していきます。
特に35歳を過ぎると、その傾向が顕著になることが知られています。
若いうちに卵子を凍結保存しておくことで、将来妊娠を希望したときに、その時点の卵子ではなく、凍結保存しておいた卵子を使用することができます。
受精卵凍結と未受精卵凍結の違い
生殖医療では、「受精卵凍結」と「未受精卵凍結(卵子凍結)」という2つの方法があります。
それぞれの違いを理解しておくことが大切です。
目的
受精卵凍結は、体外受精を行って精子と卵子を受精させた後の受精卵(胚)を凍結保存する方法です。
主に不妊治療中のカップルが、余剰胚を保存する目的で行われます。
一方、未受精卵凍結(卵子凍結)は、受精させる前の卵子そのものを凍結保存する方法で、パートナーがいない方や、将来のために卵子を保存しておきたい方が選択します。
時期
受精卵凍結は、既にパートナーがいて、不妊治療を行っている方、またはこれから体外受精を予定している方が対象です。
未受精卵凍結は、パートナーの有無にかかわらず、将来の妊娠に備えて卵子を保存したい方が対象となります。
受精方法
受精卵凍結の場合、採卵後すぐにパートナーの精子と受精させ、受精卵(胚)として凍結保存します。
未受精卵凍結の場合、採卵した卵子をそのまま凍結保存し、将来妊娠を希望したときに融解して、その時点でパートナーの精子と受精させます。
同意方法
受精卵凍結の場合、受精卵はカップル2人のものとなるため、凍結時および使用時には必ずカップル双方の同意が必要です。
未受精卵凍結の場合、卵子は本人のものであるため、凍結時および使用時の同意は本人のみで可能です。
卵子凍結の適応
卵子凍結には、社会的適応と医学的適応という2つの適応があります。
社会的適応とは、個人のライフプランや社会的な事情により卵子凍結を選択することです。
キャリア形成や教育を優先したい、経済的な理由で妊娠・出産の時期を先延ばしにしたい、パートナーがまだいない、現在のパートナーとの関係が結婚や妊娠を考える段階ではない、加齢による妊娠への不安があるといったケースが該当します。
社会的適応による卵子凍結は、近年増加傾向にあり、女性の選択肢の一つとして認識されつつあります。
医学的適応とは、病気やその治療により卵巣機能が低下する可能性がある場合に、卵子凍結を選択することです。
がん治療(化学療法や放射線治療)や、自己免疫疾患などで卵巣機能に影響を与える可能性のある治療を受ける予定があるといったケースが該当します。
医学的適応の場合、治療開始前にできるだけ早く卵子凍結を検討することが重要です。
2.卵子凍結の流れ
初診から排卵誘発まで
まず、医師とのカウンセリングを行います。
卵子凍結の目的、リスク、費用などについて詳しく説明を受け、疑問点や不安なことを相談します。
また、卵巣の状態を確認するために、超音波検査や血液検査(AMH検査など)を行います。
通常、月経開始から数日後に排卵誘発剤の注射を開始し、約10日から14日間継続します。
この間、定期的に超音波検査と血液検査を行い、卵胞の発育状態を確認します。
採卵
卵胞が十分に成熟したら、採卵を行います。
採卵は、静脈麻酔下で、膣から超音波ガイド下に針を刺して卵子を採取します。
所要時間は15分から30分程度です。
凍結・保管方法
採取した卵子は、専門の培養士が成熟度を確認し、良好な卵子を選んで凍結保存します。
現在は、急速凍結法(ガラス化法)という技術が用いられており、融解後の生存率が高くなっています。
凍結した卵子は、液体窒素を使用したタンク内で、マイナス196度で保管されます。
卵子の状態は変化せず、理論上は長期間の保存が可能とされています。
凍結した卵子を使用する流れ
融解した卵子とパートナーの精子を受精させます。
通常は、「顕微鏡下で選別した1つの精子を、細いガラス針を使って直接卵子に注入する」という顕微授精(ICSI)で受精させます。
受精卵(胚)が順調に発育したら、子宮内に移植し、胚移植から約2週間後に、妊娠判定を行います。
3.妊娠率とリスクについて
年齢別妊娠率の考え方
凍結卵子を使用した場合の妊娠率は、採卵時の年齢に大きく左右されます。
※これらの数字はあくまで目安であり、個人差があります。
35歳以下で採卵した卵子を使用した場合、1個の成熟卵子から出産に至る確率は約5から8%程度という報告があります。
36歳から39歳で採卵した場合、妊娠率はやや低下します。
40歳以上で採卵した場合は、さらに妊娠率が低下する傾向にあります。
また、卵子を凍結すれば必ず妊娠できるというわけではありません。
融解した卵子が受精しない、受精卵が発育しない、着床しないなど、様々な理由で妊娠に至らない可能性があることを理解しておく必要があります。
流産率
流産率についても、年齢依存性があります。
というのも、卵子は若い時期のものを使用できますが、年齢に伴う子宮環境の変化により流産率が上昇する可能性が指摘されているからです。
卵子凍結のリスクについて
卵子凍結にはいくつかのリスクがあります。
採卵に伴うリスク
採卵時には、出血、感染、周囲臓器の損傷などが起こる可能性があります。
これらの発生頻度は低いとされていますが、ゼロではありません。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤の使用により、卵巣が過剰に刺激される状態を卵巣過剰刺激症候群(OHSS)といいます。
軽度の場合は腹部膨満感や軽い腹痛ですが、重症化すると腹水や胸水が貯まり、入院が必要になることもあります。
凍結・融解による卵子の損失
凍結・融解の過程では、すべての卵子が生き残るわけではありません。
現在の技術では融解後の生存率は約90%前後と報告されていますが、卵子によっては融解後に使用できなくなる場合があります。
妊娠に至らない可能性
卵子を凍結したからといって、必ず妊娠できるわけではありません。
融解した卵子が受精しない、受精卵が発育しない、着床しないなど、様々な理由で妊娠に至らない可能性があります。
妊娠率は採卵時の年齢に大きく依存しますが、若い年齢で凍結した卵子であっても、妊娠が保証されるわけではないことを理解しておく必要があります。
高齢妊娠のリスク
卵子は若い時期のものを使用できますが、子宮環境は実年齢の影響を受けます。
実年齢が高くなってから妊娠した場合、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの妊娠合併症のリスクが上昇する可能性があります。
4.費用と助成金について
卵子凍結は基本的に自費診療となります。
費用は医療機関によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
初診・検査費用は1万円から3万円程度、排卵誘発費用は10万円から20万円程度、採卵費用は10万円から20万円程度、卵子凍結費用は1個あたり2万円から5万円程度です。
また、保管には、年間の更新費用が必要です。
更新費用は医療機関によって異なりますが、年間3万円から10万円程度が一般的です。
将来、凍結した卵子を使用する際には、融解費用、顕微授精費用、胚移植費用などが別途かかります。
融解費用は1個あたり数万円程度、顕微授精から胚移植までの費用は20万円から50万円程度が目安です。
助成金制度については、医学的適応の場合、一部の自治体で助成が受けられる場合があります。
特に、がん患者さんの妊孕性温存治療に対しては、国や自治体からの助成制度があります。
東京都でも、がん患者等の妊孕性温存療法に対する助成制度があります。
対象となる方は
- がん等の原疾患の治療により卵巣機能の低下または喪失が見込まれる
- 卵子または卵巣組織の凍結時点で43歳未満である
- 助成を受ける治療以外に妊娠の可能性がないまたは極めて少ないと医学的に判断される
といった条件を満たす方です。
助成金額や申請方法については、お住まいの都道府県や区市町村によって異なりますので、各自治体の窓口にお問い合わせください。
5.大手町ARTクリニックについて
卵子凍結は、将来の妊娠の選択肢を広げる一つの方法ですが、残念ながら凍結すれば必ず妊娠できるというわけではありません。
当院では、卵子凍結を検討されている方に対して、丁寧なカウンセリングを行い、メリットとリスクを十分にご理解いただいた上で、ご自身に合った選択をしていただけるようサポートしています。
ご不明な点やご不安なことがございましたら、まずはお気軽にご相談ください。
参考文献
日本生殖医学会「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する見解」
日本産科婦人科学会「生殖補助医療の適応」
厚生労働省「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」
